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「早く早くつたつて、もうお支度はちやんとできてますわ。あなたが遅くかへつて来といて――」
「永いこつてすよ」――そのきつぱりとし、そのためにかへつて本当の永さを、あのつきることのない、何かしらにみちた前方の日々を現しているその云ひ方が、ひどく房一の頭に残つていた。
小谷はしばらく放つていた糸を手許にひきよせて、水の中の鮎を眺めながら云つた。
房一はすかさずさう口にすると、低く鹿爪しかつめらしいお辞儀をした。どうも、これでは少し固苦しいかな、と自分の声を自分で聞きながら。彼はいくらか汗ばんでいるやうな気がした。慌あわてないで、さう自分に云つた。
「まあ、生れ故郷ですから」
房一は男の前膝部をたゝいた。脚気でもない。心臓は弱つていた。単音でなく、微弱な重音があるので弁膜症の気味があるとも診られた。呼吸器に異状はなかつた。一応の診察を終ると、房一は患者の顔から、胴体にかけて、熱心に眺めた。皮膚は弛緩して、生気がなかつた。だが、その極端な貧血と一般的な衰弱とは典型的な寄生虫の症状らしいことにさつきから気づいていた。
「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」
と、房一を誘つていた。
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
「何かの、いつたいあの山を掘つても引合ふのかな」
と、練吉が引つたくるやうにとつてしまつた。
「へえ、――どうもごていねいなことで――」
と、今泉は一寸声をひそめた。