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と云ふ、思ひがけないほどはつきりした声で差し出した。そして、又淡泊なさつさとした足どりで台所の方へ去つた。
「訴訟があるさうで、面倒なことですな」
八月も末だつた。十日あまり思ひがけない涼しさがつゞいたので、このまゝ九月に入るのかと思はれたが、暑さは又ぶり返して、がまんがならないほどだつた。
「ふうむ。いや、よからう」
「さうです。農林学校の先生だとかをしていられると聞きましたが」
と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。
「いや、どうも」
「いゝえ、なんの。おれんとこへなんか。――あんたは忙しい身だもの」
房一は目を上げて注意深く道平を見た。
と、酒が少し入るとすぐ真赤になる性質の房一は、その紅黒い顔を火照ほてらせ、円い身体を持扱ひかねたやうになつて訊いた。
「さつき、河原で、先生に会つたんでさあ。――往診に出かけなさる途中でね」
病人は十七になる相沢の一人息子で、県庁のある市の中学寄宿生だつたが、軽い肋膜炎でかなり前から家でぶらぶらしているといふことは、昨夜来た使ひの者から聞いていた。