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奇妙な貸家で、だいたい差配というものは家主に使われているのが普通のはずであるが、ここはアベコベに、差配が伊東で一二を争う金持で、御殿のような大邸宅に住んでいる。家主の方も相当な洋館にいるが、差配にくらべると、月とスッポンである。差配は七十ぐらいの老人で、市会議員で、土建の社長だそうだ。
――彼は医者である。免状もある。開業もした。患者もどうにかつきはじめた。職業的には立派に医者としての条件を具へつゝある。だが、河原町ではそんなことは通用しないのだ。何か別のものが、職業上の条件以上のものがここでは必要だつた。
「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」
と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。
「うん、おれもこないだ通り合せたんだが、前を山支度の娘が寵をかついで歩いているんだな、するとやつぱり大声でからかつとつたよ」
彼らは家の間まの一つを「商人宿」にしている。ここも按摩が住んでいるのである。この「宗さん」という按摩は浄瑠璃屋の常連の一人で、尺八も吹く。木地屋から聞こえて来る尺八は宗さんのひまでいる証拠である。
もう一度軽く頭を下げながら、それまで馬を眺めていた房一はふりかへつて相沢を一瞥した。彼は何故だか判らぬながらに、相沢の話振りから一種不快な響きを聞き分けていた。
「はあ」
「うむ、わしか」
「はあ、見て参ります」
と、ゆつくりはじめた。
「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。